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心臓血管外科 後天性心臓病

心臓弁置換術について

 心臓の中には弁があります。このことは結構多くの方々がご存知です。しかしどこにどんな弁があるかはあまり知られていませんし、その弁を取り換える手術、となればなおご存じない方が多いと思います。ここでは心臓弁の病気と弁を取り換える手術についてご説明したいと思います。

どの弁?
 心臓の中は不思議と血液の流れが一方通行になっています。よどみなく、逆流なくスムーズに血液は流れていきます。その一方通行は何を隠そうこの弁によって保たれているのです。ちょっと昔の理科を思い出して下さい。心臓の中身を復習です。全身から静脈の血液が右心房へ流れ込み→三尖弁を介して右心室→肺動脈弁を介して肺動脈→肺で酸素をもらって動脈の血液になって→肺静脈を通って左心房→僧帽弁を介して左心室→大動脈弁を介して→大動脈、全身へ、という感じで血液は流れます。これが理想です。しかし場合によっては弁が故障して手術で修理をしなければならなくなることがあります。

 我々が手術で扱うとこの多い弁No.1は大動脈弁です。大動脈弁は左心室の出口、まさに心臓から血液が全身へ送り出される場所にあります。この弁の開きが悪くなったり、閉じが悪くなったりすると左心室に負担がかかってしまいます。No.2は僧帽弁です。僧帽弁は左心房と左心室の間にあります。もし私が心臓の中で一番頑張っている弁は?と聞かれたら、間違いなくこの僧帽弁!と答えます。なぜか。僧帽弁の役割を考えると、左心房から左心室へ血液が流れ、左心室が収縮するときに左心房へ逆流しないように閉じるわけです。左心室は全身に血液を送る最強のポンプですので、収縮するときは非常に強い力がかかります。この圧に耐えて左心室から左心房へ血液が逆流するのを、まさに身を挺して防いでいるのです。この弁の閉じが悪くなったりすると不整脈の原因になったり、左心室に負担がかかったりします。No.3は三尖弁です。右心房と右心室の間にあります。多くの場合は他の弁の故障のあおりを受けて、閉じが悪くなってしまうことが多いです。以前は三尖弁の多少の故障について世間は目をつぶっていたのですが、最近は積極的に修理しようという方針に変わってきています。

薬じゃだめですか?
 薬で良いです、最初は。弁の故障は症状がない、心臓に悪影響が出てない、という期間が結構長いことが多いんです。検診で心雑音と言われ、調べてみたら弁の故障が分かりました、でも症状がなくて、心臓に悪影響も出ていないから様子を見ています、という方は私の外来にも結構いらっしゃいます。故障→即、手術ではないんです。

 ではどんな時に手術になるのでしょうか。弁によって(大動脈弁か僧帽弁か、あるいは両方か、三尖弁もか)、そして故障の具合によって(閉じが悪いのか開きが悪いのか、あるいは両方か)、細かく「手術の適応」というのが決まっています。ここではそれをすべて載せることはできないので、簡単にお話ししますと、弁の故障によって、歩くと息切れがするとか、胸が痛くなるとかの困った症状がある場合、症状はないけれどエコーで見ると心臓の機能が低下してきている場合、あるいはドキドキが速くなるような不整脈がある、などが手術で修理した方がいい理由になります。なぜかというとそのようなことが起こってくると、心臓が長持ちしなくなる、つまり命が短くなることにつながるということが分かっているからです。心臓の手術を受けたい人はいないです。やはりそれなりに大きな手術なのでちゃんとした理由がないと手術をお勧めしたりはしません。ちゃんとした理由、それは命を長らえるため、に他なりません。

手術って?
 今回の私の話は、弁の修理のうち弁を取り換える手術、つまり「弁置換術」をメインにご説明します。「人工弁」。ちょっと構えてしまうサウンドですね。この言葉を出すと「人造人間」をイメージする方もいます。でももちろんそれほど大掛かりな人工物ではありません。心臓の中に縫い付けて、血液がよどみなく、そして逆流せずに流れていくようにとても精巧に作られた弁です。下の写真を見てください。
人工弁

 どちらもよく使う人工弁です。左側の黒光りしているのは「機械弁」、右側の白い方は「生体弁」と言います。どう違うかというと、機械弁はカーボンという特殊な頑丈な素材でできた2枚の羽根が心臓の拍動に合わせて、カチャカチャと開閉するのに対し、生体弁はウシの心膜という膜に特殊な処理をして頑丈にしたのちに、人の手で3枚の羽根を立体的に組み合わせて、スムーズに開閉する弁の形に作ってあります。どちらも現物を見ると非常に精巧に作ってあって感心するほどです。一番外側に布でできたつばの様な部分がありますね。ここが心臓に縫い付けるときの縫い代になります。左側の機械弁の縫い代に黒い線が入っているのは・・・・?縫う時の目印になるように外科医のためにわざわざメーカーがつけてくれた線です。

 心臓弁はどれも血液がビュンビュン流れているところにあるので、修理するとなると、その血液の流れを止めなければいけません。と言うことは、そうです、心臓を止めなければいけない、ということです。「心臓を止める」、さらに構えてしまうサウンドですね。実際にはノウハウがもちろんあって、安全に心臓を止めています。そして安全に手術を行っています。人工心肺という言葉はお聞きになったこと、ありますか。心臓が(呼吸も)止まっている間、この大がかりな機械、人工心肺が患者様の体の血流を担ってくれます。ちなみに人工心肺は私たちの病院の臨床工学士が担当しております。心臓外科医と臨床工学士はいつも一つのチームとして一丸となって手術を行っています。

 心臓を止めたら、故障している弁を切り取ります。心臓の弁は開いたり閉じたりする扉の部分(弁尖:べんせん)とそれを支える枠組みの部分(弁輪:べんりん)があるのですが、具体的にはそのうちの弁尖の部分を切り取ります。弁輪は後で人工弁を縫い付ける縫い代になります。中には弁尖や弁輪が動脈硬化のような変化を起こして、石の塊のように固くなっている場合や、細菌感染を起こしてぐずぐずに脆くなっている場合もありますが、そんな時は心臓を覆っている心膜という膜を使って弁輪を補強するような小細工もしたりして、人工弁を縫い付けられるように工夫しています。
大動脈弁を生体弁で取り換えたときの手術中の写真
 上の写真は大動脈弁を生体弁で取り換えたときの手術中の写真です。糸で縫い付けてある様子がお分かりいただけると思います。糸が白と青で交互になっているのは、隣同志の糸がこんがらがらないように、色分けをしているんです。

納豆が食べられない?
 先ほどの人工弁、機械弁と生体弁、違いは何でしょうか。一番生活に関わる違いはワーファリンです。聞いたことありますか、ワーファリン。血液サラサラ薬で最強です。古株ですが最強です。機械弁の場合、カーボンでできている羽根が常に血液に触れているので、その部位に血糊ができる心配があります。弁に血糊がつくと、羽根が動きにくくなったり、できた血糊の一部が血流にのってどこかへ飛んで行って、悪くすれば脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす可能性があるのです。したがって機械弁の場合は必ずワーファリンを内服します。そうです、このワーファリン、納豆と相性が悪いことが知られています。納豆を食べるとワーファリンの効果がなくなってしまうのです。納豆大好きな方、すいません。

 ほかに相性が悪いと言われているのは、健康食品の部類でしょうか、「クロレラ」という製品。それからよく本などに緑黄色野菜も注意と書かれていることがありますが、実際にはすごく大量に食べないと影響はないので、例えばほうれん草の付合せなど食べても大丈夫です。緑黄色野菜位を大量に食べる人なんて、いますかね・・・・。いるんです。「青汁」です。これはちょっと注意です。健康のために飲んでいらっしゃる方がほとんどだと思いますが、ワーファリンとは相性が悪いので禁止です。

 一方、生体弁は術後3か月程度ワーファリンを内服していただいた後、不整脈などなければ、ワーファリンを卒業します。これは納豆好きの方には朗報です。クロレラも青汁もお好きな方はどうぞ。ただカーボン製の頑丈な機械弁と比較して、これが意外と大事なのですが、耐久性がやや落ちます。一般に、生体弁の耐久性は15年くらい、と理解されております。患者様それぞれの持病によっても違うのですが、生体弁の動きが悪くなったり、亀裂が入ったりすることがあるようです。場合によっては手術で再び弁置換術が必要になることもあります。でもできれば心臓の手術なんて一生で一回で終わらせたいですよね。ではこの耐久性15年をどう考えるか。誰しもあと何年生きられるか、は分かりません。なので心臓外科の世界では平均寿命を考慮して弁を選択するのが一般的です。日本は世界一の長寿国。2014年の世界保健機関の発表では男性80歳、女性87歳!引き算してください、男性80歳-15年=?、女性87歳-15年=?どうですか、だいたい70歳前後で生体弁を選択するという計算でいかがでしょうか。もちろんこれはあくまで一般論で、弁の選択はそれぞれの次患者様のご希望を最優先ですが、こんなことを参考に弁を選んでいるんです。ちなみに最新の報告では上の写真の生体弁は10年後に故障する可能性が1.9%、20年後で15%と言われていますので、15年以上もつ可能性も、十分にあります。

術後、どう?
 術前にみなさん口々に言うのが、「目が覚めたときに痛いのは嫌だ」ということです。
ご安心ください。術後はみなさん「思ったほど痛くない」方が多いです。なぜならば必ずちょっとよく効く痛み止めを使うからです。正確に言うと集中治療部の医師が必ず痛み止めを使ってくれるからです。誰しもどこかが痛いと、深呼吸をしたり咳をしたり、体位を変えたりすることが嫌になってしまいますが、それは術後の呼吸の具合を悪くすることにつながってしまうので、それを避けるために痛み止めは必ず使います。そうです。痛みは我慢するべきものではないのです。また集中治療室では、痛み止めに限らず、心臓手術後の管理全般を熟知した集中治療部の医師団と協力して治療に当たりますので、どうぞご安心ください。

 術後の経過は患者様によってさまざまですが、おおむね術後1-2日以内に人工呼吸を離脱して2-3日後に集中治療室を卒業します。その後は多少点滴などがつながっていても積極的にリハビリをします。術後ベッド上での治療が長ければ長いほど体力回復に時間がかかり、その他の合併症も増えることが統計的に分かっているので、点滴がつながっていようと、チューブがあろうと、積極的にリハビリをします。そして体力が回復したら・・・・、退院が見えてきます。手術から退院までだいたい平均2-3週間といったところでしょうか。

結局、どうすればいい?
 心臓弁置換術をお受けになる方、あるいはそのご家族の方で、わからないことがあるままになってしまっている、どこで聞いたらいいかもわからない、セカンドオピニオンを聞きたい、と不安に思われている方は是非当院心臓血管外科外来にご連絡ください。火曜日、木曜日の午前中に皆さんとお会いしてご説明申し上げます。どうすればみなさんにとってもっともハッピーな結果を生み出せるかという視点に立って、治療の作戦を立てましょう!

文責 郷田素彦