大血管疾患

Aortic Disease

大動脈とは?

大動脈は、心臓から全身に血液を送り出す最も太い血管です。心臓からまず頭の方に向かい、脳や腕への動脈が分かれます(通常右1本、左2本)。その後Uターンして、足の方向に向かい、横隔膜を越えてお腹の中に入ると、胃や腸、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓などに流れる枝をそれぞれ出して、最後におへそのあたりで左右に分かれて骨盤周囲への動脈と、足への動脈に分かれます。

大動脈瘤とは?

大動脈瘤とは、大動脈が瘤状に膨らんでいる状態です。大動脈の正常の太さは胸部大動脈で約30mm、腹部大動脈で約20mmです。大動脈瘤の基準は「正常径の1.5倍以上」のため、胸部大動脈瘤は45mm以上、腹部大動脈瘤は30mm以上で動脈瘤と診断されます。

大動脈瘤は破裂するまでは無症状のことがほとんどですが、破裂すると大量出血によるショック状態となり緊急手術が必要となる、致死率の極めて高い疾患です。

大動脈瘤は大きいほど破裂のリスクが高く、瘤の大きさによる破裂のリスクは下の表のとおりです。破裂(胸部では解離を含む)を起こす確率が胸部大動脈・腹部大動脈ともに5cmを超えると「年間の破裂率は3%を超える」と言われています。また、瘤の形によって紡錘状瘤(ぼうすいじょうりゅう)と嚢状瘤(のうじょうりゅう)とに分けられ、嚢状瘤のほうが破裂しやすい傾向があります。その他、急速に拡大している場合は早めの治療を検討します。

大動脈解離とは?

大動脈の壁は下の図のとおり、外膜・中膜・内膜の3層構造になっています。大動脈解離は、内膜に亀裂が入り、中膜が裂けて空間ができて、本来血液が流れる場所ではないところに血液が流入してしまう病気です。血管が裂ける時には激烈な痛みがあります。また、血管の外膜まで裂け目が及ぶと、血管が破裂して大量出血によりショック状態になります。
また、血管が裂けた場所によっては、大動脈から分かれる動脈に血液が流れなくなることがあり、大きな脳梗塞や腸管壊死(腸に血液が流れず、腸が腐ってしまう)など重大な合併症を起こす可能性があるため、緊急手術が必要になります。特に心臓に近い場所の大動脈が裂けている場合は、救命のための緊急手術が必要です。

大動脈瘤・大動脈解離の治療

大動脈瘤、大動脈解離の治療は、瘤や解離になっている場所、血管の大きさや形、患者さん自身の全身の状態などを十分に考慮して、適した治療法を選択します。
治療法はおもに、①外科手術(人工血管置換術)、②ステントグラフト治療と、①と②を組み合わせた治療です。

①外科治療(人工血管置換術)

手術で、大動脈瘤、大動脈解離になった血管を取り除き、代わりとなる人工血管を吻合する治療です。メリットは、瘤や亀裂が入った血管の部分は取り除かれるため、その部分は再発する可能性がなくなります。デメリットは、胸部や腹部を大きく切って手術をしなければならないため、身体への負担が②のステントグラフト治療よりも大きくなることです。身体への負担の大きさは、手術をする場所によっても異なります。詳しい説明は、担当医にご相談ください。

胸部大動脈瘤 人工血管置換術
腹部大動脈瘤 人工血管置換術

②ステントグラフト治療

ステントグラフト治療は「ステント」と呼ばれる金属の骨格と、手術で使う人工血管の素材と同様の「グラフト」が一体となったを使用する治療です。足の付け根の血管の中からステントグラフトを大動脈に入れ、大動脈瘤の場所で拡げて動脈瘤の中になるべく血液が入らないようにすることで、動脈瘤が大きくなることを防ぎます。メリットとしては、足の付け根の血管からカテーテルを入れて治療を行うため、手術よりも身体への負担が少ないことですが、デメリットとしては、動脈瘤への血流が完全に閉ざされていない場合、動脈瘤が大きくなることを防ぐことができない場合があります。

大動脈瘤およびステントグラフと治療についての詳しい説明は、日本ステントグラフト実施基準管理委員会一般向けホームページに記載されています。

手術かステントグラフト治療か、またはその他の治療かの選択は個々の患者さんによって異なります。動脈瘤の大きさ、血管の曲がり具合、動脈硬化の程度、そして、心臓や肺の病気など他の病気の有無、年齢や体力など、治療の前に全身の検査を行った上で、最善と考える治療をチームで話し合って判断しお勧めしています。