虚血性心疾患とは、心臓の筋肉を栄養している血管である冠動脈の血流が低下することで起こる病気で、冠動脈が狭くなる「狭心症」、冠動脈が完全に詰まる「心筋梗塞」があります。原因の多くは動脈硬化であり、冠動脈の血管壁に脂肪などの塊(プラーク)がたまることで血管の内側が盛り上がり、冠動脈の血流を低下させます。
虚血性心疾患の症状は、胸が痛い・締めつけられるなどの症状(狭心痛)や、心不全に息苦しさ、疲れやすさ、不整脈による動悸など、さまざまなものがあります。
虚血性心疾患の中には、一定の運動で虚血発作が起こっても、普段は症状が安定している労作性狭心症のように、直ちに生命の危険には直結せず外来で診療可能な場合もあります。
また、これまでなかった虚血発作が新たに起こるようになったり、普段の虚血発作の症状が短期間に悪化・持続したり、安静時に突然虚血発作を起こすような場合には、不安定狭心症や急性心筋梗塞の可能性があり、命に関わることもあるため緊急での対応が必要になります。
虚血性心疾患が疑われた場合には、以下のような検査をおこないます。
心電図は、心臓の筋肉が虚血になっていると波形の変化が現れます。安静にしていると虚血発作が起こらない労作性狭心症では、安静の状態では虚血になっていないため変化は現れません。
心臓に運動負荷をかけた状態で心電図を記録する検査です。安静時の心電図では変化の現れない労作性狭心症は、運動の負荷をかけることによって虚血があれば、心電図に変化が出ます。
造影剤を投与してCT撮影をおこなうことで、冠動脈狭窄の有無、動脈硬化の程度などを調べる方法です。心臓は絶えず動いている臓器ですが、心電図でタイミングを合わせてCT撮影をおこなうことによりブレのない画像を得ることができます。
またCT検査は直接虚血を評価するのではなく、冠動脈の形態的な特徴を評価する検査であり、当院では他の虚血を評価する検査と組み合わせて総合的に評価し、治療方針を決定しています。
運動または薬物負荷時にアイソトープと呼ばれる放射性物質で標識した薬剤を投与し、心筋への薬剤の集まり具合を撮影し診断をおこなう検査です。虚血があるかだけではなく、虚血の範囲や程度も評価することができます。
https://link.springer.com/article/10.1007/s12471-018-1138-9
他の検査で虚血性心疾患が疑われた場合や、さらに詳しく調べて今後の治療方針を決定するためにおこなう検査です。入院しておこなわれる検査で、カテーテルと呼ばれる細い管を冠動脈に挿入し、造影剤を注入することで、冠動脈の形態的な特徴が最も詳しく評価できます。
冠動脈の狭窄がそこまで高度ではない(中等度狭窄)場合には、先端に圧センサーがついた細く柔らかいワイヤーを用いて冠動脈内圧を測定することで心筋虚血を評価する冠血流予備量比(FFR)検査をおこないます。
また冠動脈が痙攣することでおこる冠攣縮性狭心症の誘発検査などを追加しておこなうこともあり、正確な疾患評価と治療方針の決定をおこなっています。
治療一覧
治療一覧
検査によって治療が必要と判断された場合、以下の3つの治療を組み合わせて行います。
虚血性心疾患治療の基本は薬物治療です。血液をサラサラにする抗血栓薬や虚血を改善するための冠血管拡張薬、動脈硬化の進行に強い影響がある悪玉コレステロールを低下させる薬などを処方します。
薬物療法では不十分な場合には心筋への血流を回復する血行再建術(冠動脈カテーテル治療・バイパス手術)をおこないます。
動脈硬化によって狭窄または閉塞した血管を広げて血流を回復させる治療法です。 狭窄部分でバルーン(風船)を膨らませて狭窄を拡張します。多くの場合、ステント(金属)を留置します。当院では冠動脈の大きさや動脈硬化の程度を血管内超音波(IVUS)や近赤外線をもちいた光断層撮影法(OCT)で正確に評価し治療をおこなっています。
通常のバルーンでは十分な拡張が得られないような動脈硬化が進行し非常に硬くなった病変に対しては、先端にダイヤモンドの粒を装着した丸い金属を高速で回転させて削る治療(ロータブレーター)や、先端にクラウンと呼ばれるダイヤモンドで構成された部分を軌道回転させて削る治療(ダイヤモンドバック)などをもちいて良好な結果を得られるように努めています。
多量の血栓を有する病変などに対しては、レーザー光線を当てて病変を減量させるエキシマレーザーカテーテルをもちいた治療も可能です。
冠動脈バイパス術(CABG:coronary artery bypass grafting)は1960年代から行われている手術です。カテーテル治療(PCI)は、冠動脈が狭くなったり詰まったりした場所を広げて、その先の血管の血流を良くする治療ですが、CABGは、狭くなったり詰まったりした場所の先に、別の血管(グラフト)を繋げることによって、血液の流れを改善させる治療です。繋いだ血管は、術後10年でも90%は血流を維持し(内胸動脈から冠動脈の左前下行枝へのバイパス)、特に複数の場所に狭窄や閉塞がある患者さんには、PCIよりも優れているとされています。
ただし、CABGは、全身麻酔で行う手術であるため、全身麻酔による影響や、手術による身体への負担を考慮して行う必要があります。術前にさまざまな全身の検査(脳血管や頚動脈など全身の血管の状態、肺の機能、消化管の病気の有無、糖尿病や腎機能の程度、合併症など)を行なって、手術リスクの評価(STSスコア、EuroSCORE II、JapanSCORE)を行います。
患者さんの合併症や状態などを十分に考慮した上で、CABGがよいか、PCIがよいか、さまざまなガイドラインや過去の報告に基づくエビデンスを鑑みて、CABGが適していると判断した場合に手術をおすすめしています。