胸壁の内側と肺の表面は、気管支との連続部位で折れ返るように1枚の連続した『胸膜』と膜で覆われた構造となっており、この膜によって1つの閉じた空間となっている『胸腔』というスペースが存在します。この『胸腔』に空気が溜まれば気胸、水が溜まれば胸水といいますが、このスペースに膿が溜まる病気を『膿胸』と言い、膿が溜まってから約1か月以内の場合を急性膿胸、それ以上の場合を慢性膿胸といいます。
呼吸器外科足立 広幸
急性膿胸は細菌感染や誤嚥などによる肺炎に引き続いておこることがほとんどで、最初は発熱や咳、痰などの肺炎症状が出ますが時間とともに胸痛や呼吸困難感などの症状が現れます。一方、慢性膿胸は炎症が慢性化してしまっているため発熱や咳といった症状が現れないこともあります。しかし、膿の溜まりと炎症が長引くことで肺が膿の溜まりに圧される形で縮んだ状態で固定してしまうため肺が膨らめず呼吸困難感がでる場合があります。
発熱などの症状があり、かつ胸部レントゲンやCTで胸水がある場合に膿胸を疑います。その場合は細い針を刺して溜まった水を抜き、水の中の細菌の有無などを調べて診断を確定します。炎症の程度を調べるために採血なども行ないます。
抗生剤治療を行いつつ溜まった膿を排出するために局所麻酔で胸腔ドレーンという管を留置します。しかし膿胸となると細菌は隔壁という小さな壁を作って膿だまりを小部屋に分けてしまうため、外から針や管を刺してもすべての小部屋から膿を出すことができません。その場合には胸腔鏡下手術で小部屋の壁を破壊して元の1つの空間とし、膿を出しやすくする「膿胸腔搔破術」という手術を行います。
一方、慢性膿胸で手術で小部屋を破壊しても膿が溜まっていた形に肺が固まってしまっているため、そこに新たに菌が繁殖してしまい完全に無菌化することは不可能です。そのため、手術で肋骨を数本除去し、胸壁を開放して膿だまりと外気とを交通させる胸壁開窓術を行います。年単位で胸腔を開放して無菌化が得られた場合に交通を閉鎖する手術を検討します。急性、慢性とも手術の役割は膿を出しやすくする環境を作成することであり手術の後にも長期の抗菌薬治療や創処置、栄養療法が必要です。
当院では呼吸器内科と連携を取りながら膿胸治療を行っております。膿胸の治療は手術後も長期の抗菌薬治療や創処置、栄養療法が必要であり入院期間は術後2~3週間程度となります。特に慢性膿胸の場合は膿だまりと外気が交通しているため連日のガーゼ交換が必要となり、状態が安定した後は自宅で家族にガーゼ交換を年単位で行っていただく必要があります。