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留学記Study at otherinstitutions

呼吸器センター外科

がん研究会有明病院 呼吸器センター外科 三ツ堀隼弘

はじめに

私は2017年4月より2年間、がん研究会有明病院 呼吸器センター外科にレジデントとして国内留学させていただいております。この場を借りて留学のご報告をさせていただくとともに、がん研に来て私が肌で感じたことを率直に述べさせていただきます。

がん研とは?

1934年(国立がんセンターよりも前)に日本で唯一のがん専門病院として大塚に発足し、2005年に現在の有明の地に移転して13年になる686床の近代的施設です。フジテレビや東京ビックサイトなどが近隣にある臨海副都心と言われるエリアで、行く前は大都会というイメージでしたが、行ってみると意外に広々としていて気持ちのいい反面、周辺には飲みに行く店もなくて仕事・勉強に集中できる環境です。前任の野間先生は近隣にマンションを借りていらっしゃいましたが、私は自宅を購入した直後ということもあり、片道約1時間かけて電車通勤しています(通勤中も貴重な睡眠時間です)。

2017年の手術件数は553件で、原発性肺悪性腫瘍は348例、転移性肺腫瘍は128例でした。胸腔鏡手術の割合は年々増えており、肺葉切除以上の肺癌切除例の内84%が完全鏡視下に行われています。また、骨軟部肉腫や頭頚部癌など他の施設ではあまり見ない肺転移切除例が多いのも特徴の一つです。

横浜市大からは、2009年に永島先生(現神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長)が留学開始して以来継続して2年毎に人を出しており、私で5人目になります。2009年と比較すると手術件数は約200件増え、VATSの割合は38%→84%と2倍以上になっています。

がん研呼吸器外科の特徴

そんながん研呼吸器外科の特徴は、なんといっても手術(リンパ節郭清)へのこだわりにあります。がん研のモットーは「開胸と胸腔鏡で同じコンセプトの手術」

というものです。先代の部長である中川健名誉院長が確立し、現部長の奥村先生が受け継ぐ肺門から縦隔までの連続性を意識した開胸手術ががん研の伝統として根付いており、これをVATSでも可能にするために副部長の文先生が虎の門式の3portsから1port増やして助手による展開を可能にしたものが現在の「がん研式VATS」です。

がん研式VATSの特色は、以下の3点です。

①超拡大視野での対面倒立式完全鏡視下手術

②手術の初めから終わりに至るまで、細部まで定型化された手術手技

③気管支動脈を用いたリンパ節郭清

例えば右上葉切除で#11sの郭清を行う場面では、事前に膜様部を走る気管支動脈を上葉支側と中間幹側に分岐したところでそれぞれ結紮しておき、PA・PVの処理と葉間形成が終わってから#11sと#12Lの間で中間幹側の気管支動脈(先に結紮したものの末梢)を再度結紮して切離します。この結紮糸を把持してリンパ節を損壊せずに#11sを上葉側に付けてハサミで剝き上げるといった形です。この時にカメラの出すべき視野や角度、助手の展開の仕方まで全てが定型化されており、術者だけでなく手術に入る3人全てが手術を熟知していないと成り立ちません。私はがん研に来るまでに肺葉切除と区域切除合わせて100例程度執刀していましたが、それまで気管支動脈の走行など考えたこともなかったので、初めの内は術後のカンファでもスタッフの先生達が何を話しているのかさっぱりでした。

さらに気管分岐部や#4Lの郭清では、今まで見たことがないほど深いところまで美しい手技でリンパ節郭清を行いますが、文先生はどんな症例でも2時間足らずで肺葉切除+リンパ節郭清まで終えてしまいます。また、分葉不全や高度癒着症例などに対しても決まった攻略法があり、模範解答と言えるような手術を見られるのは非常に貴重な経験です。ただし、超絶的なスピードで行われる手術に付いていけないとカメラにも助手にも厳しい檄が飛ぶため、夜な夜な同様の手術のビデオを複数見て予習しています。

一方、開胸手術はほとんどがcN1症例やSSTなどの難易度の高い症例で、特に頻度が多いわけではありませんがPA形成や気管支・分岐部形成なども経験可能です。

学術面では膨大な手術件数のdataがあることや、病理部や画像診断部との垣根が低く、各部門のスペシャリストに指導いただけることががん研の強みです。実際に諸先輩方が学位に結び付きそうな論文をがん研留学中に執筆しており、私も鋭意執筆中です。

レジデントの仕事

現在、レジデント3人で週13件(月水金 各4件+木1件)の手術を分担しています。手術は基本的にスタッフ1人+レジデント2人で入り、レジデントは主にカメラと助手を担当します。前述のように細部まで定型化された手術を理解するのに時間を要するため、1年目はLobectomyの執刀はありません。カメラから始まり、手術の流れが理解できたら助手を少しずつ経験していきます。その間に、部分切除(これも非常に難しい!)で技術を磨きます。1年目の冬頃からPV/PAの剥離などを部分的に行い、2年目に入ってからは実力に応じて執刀できるpartが増えていきます。術中に「やってみろ」と言われて突然執刀のチャンスが回ってくるので、常に緊張感を持って手術の予習をしています。

術後はビデオを見て手術の復習をし、翌朝には手術のプレゼンをレジデントが行います。anomalyや難渋した点、普段と異なる手技などがあればその理由や反省点などについて説明が求められる、厳しくもありがたい教育の場です。

手術日以外はCT読影やBF、術前カンファ、Cancer board(呼吸器内科・外科・病理・画像診断部・放射線治療部の合同カンファ)などの業務があり、木曜午後に時間が空いた時にはスタッフの先生と手術ビデオの勉強会を行っています。

レジデントは朝6時半頃出勤し、受け持ち患者の回診・カルテ記載を済ませてから当日の手術の予習をして、8時から全体業務が始まります。18~19時頃には解散となることが多いので、子供の誕生日など帰ろうと思えば早く帰れます。実際には手術の予習・復習やdry boxでのトレーニング、学会発表準備などを行っていると、気づけば2~3時間経っていることが多いです。

一方で休日は当番以外原則フリーで、夏休みが2回もらえる!という点が家族へのアピールポイントです。給与も多くはありませんが、医局から派遣していただいているアルバイトのおかげもあり、不自由なく暮らせています。

がん研で感じたこと

がん研への留学を決める際、私は横浜市大の関連施設でVATS lobectomyの執刀が増えている最中でしたが、がん研ではなかなか執刀させてもらえないということが気がかりでした。そんな私の背中を押したのはあるがん研OBの先生のこんな言葉でした。「がん研に行くのは、サッカー選手がヨーロッパに行くようなもんだよ。バルセロナとかレアルに行って、メッシとかロナウドと一緒にやると思ってみなよ。試合に出られなくても、一緒に練習するだけでも行く価値あるだろ?」と。

実際に行ってみると、まさに言われた通りと感じています。スタッフの先生方は一例一例を非常に大事にしており、手術の度に反省し、さらに良いやり方を探求するプロフェッショナルの集団です。試合出場(執刀)のチャンスは多くないですし、突然回ってきたチャンスで上手くできなければ、しばらくチャンスは回ってきません。他大学からのレジデントは良き仲間であり、ライバルでもあります。彼らと切磋琢磨しながらtop playerの技術を見て盗み、カンファの場で知識を吸収しつつ、次のチャンスに向けて常に準備をして待つ2年間です。

不甲斐ないことに私はまだ(2018年6月末時点で)まともに試合に出れてはいませんが、知識・技術・学術面や手術に対する心構えの面でも学んだことは数多く、貴重な経験であったと感じています。残り9か月でより多くのことを学び、横浜市大グループに還元したいと思います。 最後に、留学の機会を与えてくださいました益田宗孝教授をはじめ、外科治療学教室の諸先生方に深く感謝申し上げます。

がん研レジデントは全国様々な大学・施設からの派遣を受け入れており、同時期に働いた仲間はこれからの財産だと思っています。特に杏林からきていた同期はお互いのしんどい時に支え合い、夜な夜なVATSドライラボで怒られた手技を練習しあいながら愚痴をこぼし、バランスを取っていました。一生の友人です。こういった、他施設の人と深い関わりが持てるようになるのも魅力のひとつかもしれません。

あっという間に2年が過ぎましたが、成長したのか、しなかったのかよくわかりませんが濃い時間を過ごしたのは間違いなさそうです。この経験を無駄にしないよう今後も精進し、横浜市大グループの発展に貢献できればと感じております。
最後に益田宗孝教授をはじめ、快く留学に送り出し貴重な経験をさせてくださった関連の先生方に、深く感謝を申し上げます。

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