治療学教室
Catholic University of Leuven, Belgium 心臓外科 安田章沢
私は2017年8月より横浜市立大学外科治療学教室 益田宗孝主任教授の御指導の下、ベルギー王国ルーバンカトリック大学心臓外科に留学させて頂いております。同大学は益田先生が約30年前に留学されていた御縁により、数年前より外科治療学教室から留学生を受け入れて下さっており、郷田素彦先生、笠間啓一郎先生、南智行先生が留学され、私で4人目の留学生となっております。今回、益田先生の御尽力により私の留学開始後、ルーバン大学と横浜市立大学との大学間協定が締結され、教室での国外留学への道がより確かなものとなりました。大学のあるルーバン市はベルギーの首都ブリュッセルより約30km東に位置しており、Vlaams-Brabant州の州都でもあります。人口約9万人の小さな都市ですが、ベルギー最大の総合大学であるこの大学は3万人を超える学生が学んでおります。私は大学のあるこの町に住居を定めましたが、この小さな町にも数百名の日本人が住んでおり沢山の御縁に恵まれております。
2017年初めより約8か月間留学の準備を行いましたが、ビザの取得や留学資金の手配、住宅の賃貸、日本での研究の仕上げ等を行っている内に準備期間はすぐに過ぎてしまいました。準備に際し特に困ったのが住宅の問題でした。日本での住宅を賃貸に出そうと考えておりましたが、限られた期間での賃貸は条件が厳しく、中々借り手がつきませんでした。又、家族のビザを日本で取得する為にはベルギーで住居を予め確保の上、更に市役所へ登録しておく必要があります。外国での住居探しは想像以上に難しく、本渡航前に二度にわたり渡白することも必要でしたが、様々な方のお力沿えにより諸々の問題を解決することが出来ました。
私のベルギーでの勤務内容はこちらの主任教授であるBart Meyns先生に御指導頂きながら週3-4回実験室で大動物を用いた心臓補助デバイス、その他の移植実験に参加し、残りの1-2日は病院で手術の第一助手を務めるというスケジュールです。実験では、大学院生が行う実験のみならず、ベルギー国内はもとより中東や欧州各国から多数の企業が訪れ、ここでデバイス試作品の移植実験が日々行われております。その移植は非常に興味深く、最先端の医学がここで生まれているのだと実感する毎日です。私個人も昨年ベルギーでの動物実験の資格を取得することが出来、冠動脈バイパス術に使用する静脈グラフトへの外ステント移植という自身のprojectも昨年末より開始することが出来ました。留学先で自らの実験を行わせて頂けることは幸運であり、様々な困難や障壁はありますが全力で奮闘しております。又、臨床では心臓手術が年間約1300例施行されており、ベルギー国内で最多の症例数を誇っております。通常の心臓手術の他、小切開手術やロボット手術が頻繁に行われており、当科の一つの特徴とも言えます。さらに心臓移植や左心補助デバイス移植の手術も数多く、手術に参加させて頂くことでその手技の実際やコツを肌で感じることが出来、大変恵まれた環境と言えます。留学以来ルーバン大学心臓外科教授陣の高い技術や美しい手術手技、合理的思考に圧倒され、己の技量の拙さに歯がゆい思いばかりでしたが、一つでも横浜に進んだ技術を持ち帰るべく様々な経験を記録し続けております。
この国に来て痛感したことは私の語学力の拙さでした。ベルギーの公用語はオランダ語とフランス語(と一部ドイツ語)ですが、ベルギーの人々は複数の言語を自由に操り、一般教養として英語も話すことが出来る方が多くいます。彼らの語学力に日々驚くと同時に圧倒されております。留学開始以来オランダ語と英語の語学学校にも通学しておりますが、その能力差に常に悔しい思いをしております。ベルギー人だけではなく、机を並べて共に授業を受けているクラスメイトや留学生の皆も英語で良好なコミュニケーションが取れているのです。このボーダーレスな時代では世界中の人々が語学を武器に世界中を渡り歩いていることを改めて実感いたしました。更に手術室やカンファレンスでの会話は当地の公用語のオランダ語(フラマン語)であり、内容の理解が困難であることも多く、時に必要な情報を聞き漏らしてしまいます。オランダ語は英語と言語体系が似ており文法は比較的容易ですが、発音やヒアリングが難しく習得に大変難渋しております。しかし、妻と二人で励まし合いながら語学学校に通い続けております。
EUの本部があるベルギーはヨーロッパの中央に位置しており、世界中から多種多様な人々が集まってまいります。彼らと交流することで自身の見聞を広めることが出来、更には世界の一つの側面を見ることが可能であると言えます。日本に居ただけでは分からない日本や外国の長所、短所もこの一年半余りの間に知ることが出来ました。これも、海外で留学生活を送る成果の一つではと考えております。又、先日のワールドカップ日本ベルギー戦では町も大変な盛り上がりを見せました。わが家でも私と妻はベルギービールを、息子は日本の国旗を片手に大いに盛り上がり、二度と出来ないであろう貴重な体験をさせて頂くことが出来ました。この素晴らしい留学生活を後押しして下さっている益田教授始め外科治療学教室の皆様、同門会の諸先生方に深く感謝しております。留学期間も残り少なくなってまいりましたが、留学が実りあるものとなる様最後まで精進を続けたいと考えております。